過小示談 2014.11.07
過小な額で示談をしてしまうことを過小示談といいます。そのままですね(笑)
なにとくらべて過小な額なのか。
総損害額が自賠責保険の限度額内であるのに自賠責保険支払基準での算定額よりも小額で示談をすることです。
ほとんどの自動車には自賠責保険が付いています。
というか、付けないと公道は走ってはいけません。(自賠法5条、86条の3、道交法103条および108条の33)
自賠責保険は人身事故の場合のみ補償されます。
補償には上限があり、けがをしたことに対する損害は120万円です。
死亡は3000万円です。
後遺症は細かく分類され等級が定められており等級に応じた上限があります。
(一番軽い等級で75万円、一番重い等級で4000万円)
ケガの損害は治療費、休業損害、通院交通費、慰謝料等があり、死亡や後遺症の損害は逸失利益(障害や死亡がなければ得られていたであろう利益。わかりやすく言えば、未来に対する休業損害のようなもの)や後遺症・死亡に対する慰謝料等があります。
被害者はまず自賠責保険から補償を受けることになります。
自賠責保険の上限を超えた損害を任意保険会社(又は加害者)が支払うことになります。
しかし、被害者に過失がほとんどない場合には任意保険会社が立替えて支払い、後から自賠責保険に求償します。(任意一括制度)
損保会社は示談の際、ケガの損害が120万円を超えていなければ自賠責保険の支払基準での提示を行い、超えている場合は損保会社独自の基準で提示してきます。
なぜかというと、上で説明したとおり任意保険会社は自賠責保険の限度額を超えた部分から支払い義務が発生するのであり、自賠責保険限度額内であれば、あくまで立替え払いをしているにすぎないからです。
もし、自賠責保険限度額内の損害額であるのに勝手に自賠責保険の支払い基準より小額で示談してしまうと、後から自賠責保険に求償しようとしたときに自賠責保険の支払い等を審査する機関(自賠責調査事務所)から示談のやり直しを命じられてしまいます。
損保会社はそんな面倒くさいことにはなりたくないので故意に過小示談を提示してくるということはほとんどありません。
しかし、いろいろな要素が重なってくるとそのような提示がでてくることがあります。
その要素とは、まず、被害者に過失が認められる場合です。
自賠責保険では被害者に7割以上の過失が認められる事案でなければ減額はされません。(重過失減額)
任意保険基準は1割でも過失が認められればその分を相殺してきます。
次に後遺障害の認定を自賠責保険へ被害者請求して受けていること。
示談をする前に自賠責保険に対して被害者から請求をすると、審査機関(自賠責調査事務所)は損保会社に対して、治療費や休業損害など立替えているお金は無いか確認し、
ある場合にはそちらから先に支払い、清算(求償)します。(任意一括解除)
そして、限度額に余りがあれば被害者へ支払われます。
これらの要素が揃うと過小示談の提示がでてくることがあります。
実際にあった例をご紹介します。
その事故は路外から出てきた車と直進車が衝突した事故でした。
基本過失割合は路外車8:直進車2です。(判例タイムズ38【148】のケース)
直進車の運転者が首などにけがを負い症状が残存し、自賠責被害者請求にて後遺障害14級9号(一番軽い等級)の認定を受けました。
このケースはさらに特殊でこの事故以前に別件の事故にあって首をけがしており、その治療中に再度事故に遭ったものでした。
これを異時共同不法行為といい自賠責保険の限度額は倍になります。
そして、自賠責保険から後遺障害の損害として150万円(75万円×2)が支払われました。
その後あらためて後遺障害分の損害を含め保険会社に提示を求めると
「弊社の基準での算定では後遺障害の損害額は逸失利益と後遺障害慰謝料を合わせ95万円です。」
との提示でした。
これは、自賠責基準での算定では150万円を超えるが任意保険基準での算定では95万円となったということです。
前述のとおり自賠責保険の限度額が150万円なのでそれよりも低額で示談してしまうと過小示談となってしまいます。
通常であれば「弊社の算定額が自賠責保険から既にお支払を受けた額を超えないため後遺障害の損害について弊社からお支払いすることはございません」
という風に続くものですが、この損保会社は
「総損害額(上記95万円を含む)×80%(20%の過失相殺)-150万円-既払い額(病院に支払った治療費)=-○○万円となるところですが、特別に後遺障害認定前に提示していた○○万円を支払ってあげますよ。」
ときました。
後遺障害の認定がなければ賠償金をもらえるのに後遺障害の認定を受けたら損保会社にお金を払わなきゃいけなくなるの!?
無茶苦茶です。目を疑いました。
おそらく保険会社の悪意ではなく担当者の無知からくるものだと思います。
ケガによる損害と後遺症による損害がごちゃまぜになっています。
賠償額の提示をしっかり根拠を確認して作成しているのかも怪しいです。
パソコンに計算するソフトみたいなものが入っており、決まった事項を入力すれば自動的に算出されるのではないかと思います。
自賠責から先に被害者請求分が支払われる、という処理はそのソフトにとってイレギュラーであり被害者請求で支払われた額を既払い額の項目にいれるしかできず、その項目は過失相殺後に差し引かれるため、このようなとんちんかんな提示になるのではないでしょうか。(全て想像です)
担当者もなぜこうなるかよくわからないけどこれはなんかおかしいぞ・・・と思い、ケガによる損害のみを支払うという結論に達したのだと思います。
このケースではマイナスになっていてどこかおかしいと担当者が判断したのでよかったですが、マイナスとならなければ気付かずにそのまま提示していたかもしれません。
しかし、仮にこれで示談しても自賠責への求償は終わっているので被害者から何も言わなければ、過小示談として調査事務所から示談のやり直しなど横やりをいれられることもないのでしょう。
つい最近、弊所で自賠責保険へ直接異議申立をして後遺障害の認定をうけたご依頼者様のもとにもこのような提示がありました。
上記の例以外にも自賠責基準以上の損害を自賠責限度額内におさめ、自賠責へ求償するときには立証資料がほとんど求められない休業損害(主婦など)などをうまく操作してやりくりするケースがあるとかないとか。(こっちは悪意があるでしょうね。)
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